目次
1. 名義預金とは、何が問題になるのか
「名義預金」は法律上の正式な用語ではなく、実務で使われる呼び方です。口座の名義は配偶者・子・孫になっているものの、そのお金の出どころと管理の実態が亡くなった方にある預金を指します。名義預金と判断されると、その残高は亡くなった方ご自身の財産として相続税の申告に含める必要があります。
ここで問題になるのは、金額の大小ではなく申告に含め忘れることです。家族名義だから自分の相続財産ではない、と考えて申告から外してしまうと、後の税務調査で指摘され、追加の相続税に加えて加算税・延滞税がかかります。逆に言えば、正しく含めて申告してさえいれば、名義預金があること自体は何ら問題ではありません。
2. 【データ】実際にどれくらい指摘されているのか
国税庁が令和7年12月に公表した「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」によると、実地調査で見つかった申告漏れ財産の内訳は次のとおりです。
なお同じ資料には、実際の調査事例として相続開始前に亡くなった方の口座残高が基礎控除以下になるよう、相続人やその家族名義の口座へ預金を移していた事例が掲載されています(事例②、増差課税価格 約7億2千万円・追徴税額 約4億3千万円)。家族名義の口座への資金移動が、税務署にとって典型的な着眼点であることが分かります。
3. 分かれ目は「名義」ではなく「実質」
誰の財産かは、口座の名義ではなく実態で判断されます。判断の柱になるのは次の3点です。
| 見られる点 | どういうことか |
| お金の出どころ | 口座に入っているお金を誰が稼ぎ、誰が入金したのか。名義人自身の収入から積み立てたものであれば、名義預金には当たりません |
| 管理の実態 | 通帳・印鑑・キャッシュカードを誰が保管し、実際に入出金を管理していたか。名義人本人が口座の存在すら知らなければ、自分の財産とは言えません |
| 贈与が成立しているか | 贈与は「あげます」「もらいます」という双方の意思が合って初めて成立します(民法549条)。名義人に受け取った認識がなく、契約書も贈与税の申告もなければ、名義を借りただけと見られます |
4. 【自己点検】あなたの場合はいくつ当てはまりますか
次の項目を、ご自身の状況に当てはめて数えてみてください。当てはまる数が多いほど、その口座は名義預金と判断される可能性が高くなります。1つ当てはまったからといって、直ちに名義預金というわけではありません。
口座の存在を、名義人本人に知らせていない
無駄遣いを心配して、あえて伝えていないというお話をよく伺います。お気持ちは分かるのですが、本人が知らない口座は「贈与された財産」ではなく「名義を借りた預金」と見られます。
通帳・印鑑・キャッシュカードを自分が持っている
名義人に渡していない場合、その口座は名義人が自由に使える状態にありません。管理の実態がどちらにあるかは、最も重く見られる点の一つです。
贈与契約書がなく、贈与税の申告もしていない
年110万円以内であれば贈与税の申告は不要ですが、その場合こそ贈与があった証拠が残りません。契約書か、せめて振込の記録があるかどうかが分かれ目になります。
名義人の収入や年齢に比べて、残高が多い
収入のない配偶者や、まだ働いていないお子様・お孫様の名義で数百万円から数千万円の残高がある場合、そのお金がどこから来たのかは必ず確認されます。
入金だけが続き、一度も引き出されていない
毎年決まった額が入り、出金がまったくない口座は、名義人が使っていない=管理していない口座に見えます。実際に使った形跡があるかどうかも見られる点です。
口座の届出印が、自分の印鑑と同じ
名義人ごとに印鑑を分けていない場合、その口座は自分でも動かせる状態にあることになります。細かい点ですが、管理の実態を示す事実として確認されます。
5. もう当てはまっている場合に、今からできること
生前に気づいた場合と、相続が発生した後に気づいた場合とでは、取れる選択肢が変わります。
ご本人がお元気なうちに気づいた場合は、二つの道があります。一つは、名義人に口座の存在を伝えたうえで正式に贈与契約を結び直し、通帳と印鑑を本人に渡して管理してもらう方法です。もう一つは、いったんご自身の口座に資金を戻して名義預金の状態を解消する方法です。戻すこと自体は贈与にはなりませんので、贈与税がかかることもありません。
相続が発生した後に気づいた場合は、亡くなった方の財産として相続税の申告に含めることになります。申告前に気づけたのであれば、正しく含めて申告するだけで加算税はかかりません。申告後に気づいた場合も、税務署から指摘を受ける前に自主的に修正申告をすれば、加算税が軽くなる取扱いがあります。手続きの流れは修正申告のコラムで説明しています。
これから贈与を続けていくお考えであれば、記録の残し方については生前贈与と相続の違いのコラムもあわせてご覧ください。
6. よくある質問
Q. 名義預金に時効はありますか?
A. ありません。名義預金と判断されるということは、そもそも贈与が成立していなかったという意味なので、贈与税の時効の対象になりません。何年前に作った口座であっても、相続税の課税対象になり得ます。
Q. 何年前の入出金まで調べられますか?
A. 税務署には金融機関に対する調査権限があり、亡くなった方だけでなくご家族名義の口座の履歴も確認できます。必要に応じて過去10年程度までさかのぼって確認されることがあります。口座を解約していても、取引の記録は金融機関に残っています。
Q. 子ども自身のお年玉やアルバイト代を貯めた口座も対象になりますか?
A. 名義人自身の収入を名義人自身が管理している口座であれば、名義預金には当たりません。問題になるのは、お金の出どころと管理の実態が亡くなった方にある場合です。ただしお年玉については、家計を主宰していた方に帰属すると判断されることもあり、ケースによって結論が分かれます。
Q. 贈与税の申告をしていれば、名義預金と言われませんか?
A. 有力な証拠にはなりますが、それだけで安全とは言い切れません。申告をしていても、通帳を渡さずに管理し続けていた場合など、実態が伴わなければ名義預金と判断されることがあります。申告と管理の実態はセットで考えてください。
Q. 家族名義の口座がいくつもあって、自分では整理しきれません。
A. 口座ごとに開設の経緯もお金の出どころも違うため、まとめて判断できるものではありません。当事務所では一つずつ確認しながら整理するお手伝いをしています。ご家族名義の預金の整理についてはこちらのご案内もご覧ください。
7. 気づいた時点で動ければ、たいていは間に合います
心当たりがあること自体は、めずらしいことではありません。困るのは、気づかないまま相続が起きてしまうことだけです。通帳が何冊あるか分からない、という段階でも構いませんので、一度お聞かせください。当事務所は岐阜県瑞穂市を拠点に、ご家族名義の預金の整理からご相談を承っています。