子どもや孫の名義で口座を作り、少しずつお金を移してきた——よくあるお話です。ただ、この預金は口座の名義が家族であっても、税務署から見ると亡くなった方ご自身の財産とみなされることがあります。これが「名義預金」です。この記事は、責めるためではなく、ご自身の状況を点検して、今からできることを見つけていただくために書いています。

目次

1. 名義預金とは、何が問題になるのか

「名義預金」は法律上の正式な用語ではなく、実務で使われる呼び方です。口座の名義は配偶者・子・孫になっているものの、そのお金の出どころと管理の実態が亡くなった方にある預金を指します。名義預金と判断されると、その残高は亡くなった方ご自身の財産として相続税の申告に含める必要があります。

ここで問題になるのは、金額の大小ではなく申告に含め忘れることです。家族名義だから自分の相続財産ではない、と考えて申告から外してしまうと、後の税務調査で指摘され、追加の相続税に加えて加算税・延滞税がかかります。逆に言えば、正しく含めて申告してさえいれば、名義預金があること自体は何ら問題ではありません。

2. 【データ】実際にどれくらい指摘されているのか

国税庁が令和7年12月に公表した「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」によると、実地調査で見つかった申告漏れ財産の内訳は次のとおりです。

相続税の実地調査で見つかった申告漏れ財産の金額(令和6事務年度・合計2,879億円)
その他(複数の財産をまとめた区分)1,247億円
現金・預貯金等837億円
有価証券393億円
土地353億円
家屋50億円
出典:国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」(令和7年12月公表)。「その他」は複数の財産区分をまとめた項目のため、財産の種類が特定できるもののなかでは現金・預貯金等が最も多く、全体の29.1%を占めます。土地や家屋より多いという点が、この財産の性質をよく表しています。
調査を受けると、多くの場合何かが見つかります:同じ資料によると、令和6事務年度の実地調査は9,512件行われ、そのうち申告漏れ等の非違があったのは7,826件で、割合にして82.3%でした。実地調査1件あたりの申告漏れ課税価格は3,093万円、追徴税額は867万円です。これは「調査に来られたら終わり」という話ではなく、調査の対象は資料情報から申告額が過少と想定される事案が選ばれているということを意味しています。

なお同じ資料には、実際の調査事例として相続開始前に亡くなった方の口座残高が基礎控除以下になるよう、相続人やその家族名義の口座へ預金を移していた事例が掲載されています(事例②、増差課税価格 約7億2千万円・追徴税額 約4億3千万円)。家族名義の口座への資金移動が、税務署にとって典型的な着眼点であることが分かります。

3. 分かれ目は「名義」ではなく「実質」

誰の財産かは、口座の名義ではなく実態で判断されます。判断の柱になるのは次の3点です。

見られる点どういうことか
お金の出どころ口座に入っているお金を誰が稼ぎ、誰が入金したのか。名義人自身の収入から積み立てたものであれば、名義預金には当たりません
管理の実態通帳・印鑑・キャッシュカードを誰が保管し、実際に入出金を管理していたか。名義人本人が口座の存在すら知らなければ、自分の財産とは言えません
贈与が成立しているか贈与は「あげます」「もらいます」という双方の意思が合って初めて成立します(民法549条)。名義人に受け取った認識がなく、契約書も贈与税の申告もなければ、名義を借りただけと見られます
ここは誤解されやすいところです:贈与税には時効がありますが、名義預金にはありません。名義預金と判断されるということは、そもそも贈与が成立していなかったという意味なので、贈与税の時効という話にならないのです。10年以上前に作った口座であっても、相続税の対象になり得ます。

4. 【自己点検】あなたの場合はいくつ当てはまりますか

次の項目を、ご自身の状況に当てはめて数えてみてください。当てはまる数が多いほど、その口座は名義預金と判断される可能性が高くなります。1つ当てはまったからといって、直ちに名義預金というわけではありません。

1
該当したら要確認

口座の存在を、名義人本人に知らせていない

無駄遣いを心配して、あえて伝えていないというお話をよく伺います。お気持ちは分かるのですが、本人が知らない口座は「贈与された財産」ではなく「名義を借りた預金」と見られます。

2
該当したら要確認

通帳・印鑑・キャッシュカードを自分が持っている

名義人に渡していない場合、その口座は名義人が自由に使える状態にありません。管理の実態がどちらにあるかは、最も重く見られる点の一つです。

3
該当したら要確認

贈与契約書がなく、贈与税の申告もしていない

年110万円以内であれば贈与税の申告は不要ですが、その場合こそ贈与があった証拠が残りません。契約書か、せめて振込の記録があるかどうかが分かれ目になります。

4
該当したら要確認

名義人の収入や年齢に比べて、残高が多い

収入のない配偶者や、まだ働いていないお子様・お孫様の名義で数百万円から数千万円の残高がある場合、そのお金がどこから来たのかは必ず確認されます。

5
該当したら要確認

入金だけが続き、一度も引き出されていない

毎年決まった額が入り、出金がまったくない口座は、名義人が使っていない=管理していない口座に見えます。実際に使った形跡があるかどうかも見られる点です。

6
該当したら要確認

口座の届出印が、自分の印鑑と同じ

名義人ごとに印鑑を分けていない場合、その口座は自分でも動かせる状態にあることになります。細かい点ですが、管理の実態を示す事実として確認されます。

5. もう当てはまっている場合に、今からできること

相談者
恥ずかしい話なんですが、孫の名前で20年近く積み立ててきて、本人には一度も言っていません。今さらどうにもならないですよね。
江尾友宏江尾
恥ずかしい話ではありませんよ。お孫様のためにと思って続けてこられたことですから。それに、ご本人がお元気なうちに気づかれたのであれば、まだ打つ手はあります。今から正式に贈与としてやり直すか、いったんご自身の口座に戻して整理するか、どちらかを選べる段階です。困るのは、何もしないまま相続が起きてしまった場合だけです。

生前に気づいた場合と、相続が発生した後に気づいた場合とでは、取れる選択肢が変わります。

ご本人がお元気なうちに気づいた場合は、二つの道があります。一つは、名義人に口座の存在を伝えたうえで正式に贈与契約を結び直し、通帳と印鑑を本人に渡して管理してもらう方法です。もう一つは、いったんご自身の口座に資金を戻して名義預金の状態を解消する方法です。戻すこと自体は贈与にはなりませんので、贈与税がかかることもありません。

相続が発生した後に気づいた場合は、亡くなった方の財産として相続税の申告に含めることになります。申告前に気づけたのであれば、正しく含めて申告するだけで加算税はかかりません。申告後に気づいた場合も、税務署から指摘を受ける前に自主的に修正申告をすれば、加算税が軽くなる取扱いがあります。手続きの流れは修正申告のコラムで説明しています。

これから贈与を続けていくお考えであれば、記録の残し方については生前贈与と相続の違いのコラムもあわせてご覧ください。

6. よくある質問

Q. 名義預金に時効はありますか?

A. ありません。名義預金と判断されるということは、そもそも贈与が成立していなかったという意味なので、贈与税の時効の対象になりません。何年前に作った口座であっても、相続税の課税対象になり得ます。

Q. 何年前の入出金まで調べられますか?

A. 税務署には金融機関に対する調査権限があり、亡くなった方だけでなくご家族名義の口座の履歴も確認できます。必要に応じて過去10年程度までさかのぼって確認されることがあります。口座を解約していても、取引の記録は金融機関に残っています。

Q. 子ども自身のお年玉やアルバイト代を貯めた口座も対象になりますか?

A. 名義人自身の収入を名義人自身が管理している口座であれば、名義預金には当たりません。問題になるのは、お金の出どころと管理の実態が亡くなった方にある場合です。ただしお年玉については、家計を主宰していた方に帰属すると判断されることもあり、ケースによって結論が分かれます。

Q. 贈与税の申告をしていれば、名義預金と言われませんか?

A. 有力な証拠にはなりますが、それだけで安全とは言い切れません。申告をしていても、通帳を渡さずに管理し続けていた場合など、実態が伴わなければ名義預金と判断されることがあります。申告と管理の実態はセットで考えてください。

Q. 家族名義の口座がいくつもあって、自分では整理しきれません。

A. 口座ごとに開設の経緯もお金の出どころも違うため、まとめて判断できるものではありません。当事務所では一つずつ確認しながら整理するお手伝いをしています。ご家族名義の預金の整理についてはこちらのご案内もご覧ください。

7. 気づいた時点で動ければ、たいていは間に合います

江尾友宏江尾
この話をすると、皆さん一様に申し訳なさそうな顔をされます。でも私は、悪いことをした方にお会いしたことがほとんどありません。ご家族のためを思って続けてこられた結果、たまたま形が整っていなかっただけです。ですので、私が最初に確認するのは「いつから、どういうつもりで始めたか」です。そこが分かれば、贈与として整えられるものなのか、素直に相続財産に含めるべきものなのかは、だいたい見えてきます。順番としては、責める前に事実を並べる。それだけのことです。

心当たりがあること自体は、めずらしいことではありません。困るのは、気づかないまま相続が起きてしまうことだけです。通帳が何冊あるか分からない、という段階でも構いませんので、一度お聞かせください。当事務所は岐阜県瑞穂市を拠点に、ご家族名義の預金の整理からご相談を承っています。

※本記事は、記事執筆時点の税法・通達等の情報をもとに、一般的な情報提供を目的として作成しています。今後の税制改正等により、記載内容が変更される可能性があります。実際の申告・手続きにあたっては、必ず国税庁等の最新情報をご確認いただくか、税理士等の専門家へご相談ください。