海外在住の相続人がいると、相続税の申告のために「納税管理人」を選任する必要があります。
この記事では、納税管理人とは何か、誰に頼めるか、届出の実務を整理します。

目次

1. 納税管理人とは

納税管理人とは、日本国内に住所がない方に代わって、税務署とのやりとりを行う人のことです。
申告書の提出、書類の受け取り、納税の窓口を担います。
海外在住の相続人がいて、その相続人が日本国内に住所を持たない場合、相続税の申告のために納税管理人を選任します。

項目内容
対象相続税・贈与税の申告義務があり、日本国内に住所がない人
届出先被相続人の納税地を所轄する税務署
提出時期納税管理人を定めたとき、または出国の日まで
法的根拠国税通則法第117条
一次資料での確認:国税庁「相続税・贈与税の納税管理人の届出手続」には「国内に住所を有していない又は有しないこととなる場合に、申告書の提出その他国税に関する事項を処理する必要のため納税管理人を選任する場合の手続です」とあります(国税庁「B1-28 相続税・贈与税の納税管理人の届出手続」)。

相続税の場合の納税地は、原則として被相続人が亡くなったときの住所地です。
相続人自身の住所地ではない点に注意が必要です。

海外に住む日本人は、この6年で130万人規模を維持しています

海外在留邦人数の推移(外務省調査、各年10月1日時点)
2019年(過去最多)141万356人
2021年134万4,900人
2023年129万3,565人
2025年129万8,170人
※外務省「海外在留邦人数調査統計」より。「海外在留邦人の数は年々増加し、2019年に過去最多の141万356人を記録」(nippon.com「海外に住む日本人が2年連続減少:2021年は134万4900人」2022年9月29日)。新型コロナの影響で2020年から減少に転じ、2023年は129万3,565人で「20年から4年連続の減少傾向」(nippon.com「減少続く海外の在留邦人」2024年1月19日)。2025年は129万8,170人で、前年(129万3,097人)から増加に転じています(外務省公式アカウント、2025年12月25日発表)。ピーク時より減ってはいますが、常時130万人前後が海外に住んでいる規模感に変わりはなく、国税庁からは納税管理人の届出件数そのものの統計は公開されていないものの、海外在住の相続人がいる相続は特別なケースではないことが分かります。

2. 届出までの流れ

1
相続人が日本国内に住所を持たないと分かったら、早めに検討する

相続開始後、できるだけ早い段階で必要性を確認しておく。

2
納税管理人になってもらう人を決める

家族・親族のほか、相続税申告を依頼する税理士に頼むこともできる。

3
納税管理人届出書を作成する

国税庁の様式を使って作成する。

4
被相続人の納税地を所轄する税務署へ提出する

納税管理人を定めたとき、または出国の日までに提出する。

3. 誰に頼めるか

1
資格は不要

納税管理人になるのに資格は要りません

納税管理人になるための資格試験や登録は必要ありません。
日本国内に住所があれば、家族や親族でも引き受けられます。

2
税理士にも依頼可

相続税申告を依頼する税理士に、納税管理人も任せられます

相続税申告を税理士に依頼する場合、その税理士自身が納税管理人を引き受けることもできます。
申告書の作成と税務署とのやり取りが1本化されるため、海外在住の相続人にとっては窓口が1つで済みます。

4. 実務でよく見る、3つの見落とし

1
出国前に決めていない

出国してから、慌てて選任することになるケース

納税管理人は、相続が起きる前から準備しておくものではありません。
ただし、相続人本人がこれから海外へ引っ越す場合は、出国の日までに届け出る必要があります。
「そのうちでいい」と後回しにして、出国直前に慌てて手続きするケースをよく見ます。

2
納税地を勘違い

「納税地」を、相続人自身の住所と勘違いするケース

納税管理人届出書の提出先は、相続人が住んでいる場所ではありません。
被相続人(亡くなった方)が最後に住んでいた住所地を所轄する税務署です。
ここを取り違えると、書類を出し直すことになります。

3
申告と同時でよいと誤解

相続税の申告書と同時に出せばよい、という誤解

納税管理人届出書は、相続税の申告書とは別の書類です。
国税庁の案内では「納税管理人を定めたとき又は出国の日までに」提出するとされており、申告書の提出時期まで待つ必要はありません(国税庁、同上)。
決まった時点で早めに提出しておくと、税務署とのやり取りがそのぶんスムーズになります。

5. よくある質問

Q. 納税管理人を届け出ないとどうなりますか?

A. 届出がないと、税務署からの書類の送付先が定まらず、申告手続きが滞る原因になります。
相続税の申告書提出までには済ませておく必要があります。

Q. 相続人が複数いて、住んでいる国もばらばらです。納税管理人は1人にまとめられますか?

A. 相続人ごとに選任することも、代表者1人にまとめることも可能です。
状況に応じて、申告を依頼する税理士とご相談ください。

Q. 納税管理人を解任・変更したい場合はどうすればよいですか?

A. 新しい届出書を提出すれば、以前の届出は入れ替わります。
あらためて選任・解任の届出が必要です。

Q. 帰国して日本に住所を持てば、納税管理人は不要になりますか?

A. はい。
日本国内に住所ができれば、納税管理人を選任する前提そのものがなくなります。
解任の届出を忘れずに行ってください。

6. 海外にいても、日本側の窓口は必要です

江尾友宏江尾
納税管理人は、海外にいる相続人ご自身に代わって、税務署とのやり取りを引き受ける役目です。実際にご相談を受けていると、「誰に頼めばいいのか分からない」という段階で止まってしまう方が多い印象です。相続税の申告をご依頼いただく場合は、私たち自身が納税管理人を引き受けることも多く、その場合は届出のタイミングも含めて日本側で管理できます。

岐阜県瑞穂市のみずほ会計事務所は、海外在住の相続人がいる相続税申告に積極的に対応いたします。
納税管理人の選任・届出も含め、日本側の窓口としてお役に立てます。

※本記事は、記事執筆時点で公開されている国税庁・法令等の情報をもとに、一般的な情報提供を目的として作成しています。制度・手続きは変更される場合がありますので、実際の手続きにあたっては、必ず国税庁の最新情報をご確認いただくか、専門家へご相談ください。