目次
1. 老老相続とは、亡くなる方も相続人も高齢であるケース
「老老相続」とは、亡くなった方(被相続人)だけでなく、相続する側(相続人)自身もすでに高齢になっている相続のことを指します。たとえば被相続人が100歳前後、その子である相続人がすでに80歳前後、というように、亡くなる世代と相続する世代の両方が高齢者であるケースです。平均寿命が延びたことで、こうした相続は珍しくなくなっています。
「配偶者が高齢だから二次相続に気をつけよう」という話とは似て非なるもので、老老相続でより深刻なのは、相続人本人が高齢であること自体が、遺産分割という一連の手続きを難しくするという点です。この記事では、その具体的な理由と、生前にできる備えについて解説します。
2. 老老相続で相続人が苦労する3つの理由
相続人本人が高齢で、体力的に動きにくい
遺産分割協議・戸籍謄本等の書類収集・金融機関や法務局での手続きは、相続人自身が動く場面が多くあります。相続人が80代・90代の場合、外出や書類のやり取り自体が体力的な負担になり、手続き全体が長引きやすくなります。
相続人に認知症の方がいると、次の世代(孫)が実質的に動かざるを得ない
相続人(子の世代)の中に認知症などで判断能力が十分でない方がいる場合、本来の相続人ではなく、その子(被相続人からみると孫にあたる世代)が実質的に動かざるを得なくなることがあります。ただし孫は法定相続人ではないため、成年後見人の選任などの正式な手続きを別途踏む必要があり、単純に「代わりに動けばよい」という話では済みません。
相続人の兄弟姉妹が多く、関係者の人数が多くなりやすい
被相続人・相続人ともに高齢の世代は、兄弟姉妹の人数が今よりも多い時代に育っていることが少なくありません。相続人が5人・6人といったケースも珍しくなく、さらにその中にすでに亡くなっている方がいれば代襲相続でさらに関係者が増えることもあります。関係者が多いほど、全員の合意を取り付ける遺産分割協議は時間がかかります。「相続人は自分たち兄弟だけ」と思っていたら、実際には代襲相続で従兄弟にあたる世代まで関係者に含まれていた、というケースもあるため、関係者の人数と続柄は早い段階で戸籍を確認しておくことをお勧めします。
この3つが重なると、「本人たちだけで進めるのは現実的に難しい」という状態になりがちです。特にその中でも深刻なのが、次に説明する認知症のケースです。
3. 特に深刻なのは:認知症で遺産分割協議ができなくなるケース
遺産分割協議は、相続人全員が内容を理解し、自分の意思で合意することが前提です。相続人の中に認知症などで判断能力が十分でない方がいる場合、その方を含めた遺産分割協議は法律上有効に成立しません。
成年後見制度を使うこと自体は可能ですが、①申立てから後見人選任までに数か月かかることがある、②後見人は「本人(母)の利益」を最優先に判断するため、相続税を減らすための分割(配偶者に多く相続させない、など)を柔軟に選べないことがある、という制約があります。この制約を知らずに「必要になってから調べる」と対応が遅れがちです。「話し合いで決めればいい」と思っていたことが、実際には簡単に進まないケースです。
4. 【試算例】分割協議ができるかどうかで相続税はここまで変わる
言葉だけでは実感がわきにくいため、簡略化した試算例で比較します。相続財産1億円(自宅の土地5,000万円・建物500万円・預貯金4,500万円)、相続人は配偶者と子ども2人の合計3人という家庭を想定します(実際の税額は財産構成や個別事情により変わる概算の一例です)。
| 課税遺産総額 | 相続税の総額 | |
| 分割協議が成立し、特例・軽減が使えるケース | 約6,000万円(自宅土地を小規模宅地等の特例で80%減額) | 約120万円(うち配偶者分は税額軽減で非課税) |
| 認知症等で分割協議が成立しないケース | 約1億円(特例が使えず自宅土地は評価減なし) | 約610万円(配偶者の税額軽減も使えないまま申告) |
この試算例では、分割協議が成立するかどうかだけで、相続税の総額に約490万円の差が出ます。分割協議が間に合わなければ、いったんはこの高い方の税額で申告・納税し、後日成年後見人のもとで分割が確定してから更正の請求を行う、という流れになります(3年以内の分割見込書の提出などの手続きが必要・要確認)。目先の納税資金の負担も大きくなる点に注意が必要です。
5. 生前にできる備え
老老相続の問題は、相続が始まってからでは打てる手が限られます。「元気なうちに」と先延ばしにしていると、判断能力に問題が出てから遺言書を作ろうとしても有効な遺言として認められない場合があります。判断能力がしっかりしているうちに、次のような備えを検討しておくことが有効です。
遺言書を作成しておく
有効な遺言書があれば、原則として遺産分割協議そのものが不要になり、判断能力の問題に左右されません。特に自筆証書遺言の法務局保管制度は、費用を抑えて作成できる選択肢です。詳しくは遺言書の選び方のコラムもご覧ください。
任意後見制度・家族信託を検討する
判断能力があるうちに、将来の後見人をあらかじめ自分で指定しておく「任意後見制度」や、財産の管理を家族に託す「家族信託」を使う方法もあります。どちらが適しているかは財産構成やご家族の状況によって異なります。
次の世代(子・孫)とあらかじめ情報を共有しておく
相続人自身が高齢で動けない事態に備え、財産の内容や相談先を次の世代と早めに共有しておくと、実際にその世代が動かざるを得なくなったときの負担を減らせます。誰が中心になって動くのかを、元気なうちに話し合っておくことが大切です。
6. よくある質問
Q. 相続人が認知症の場合、遺産分割協議はまったくできませんか?
A. ご本人だけでは有効な協議ができませんが、家庭裁判所で成年後見人を選任すれば、後見人が本人に代わって協議に参加できます(判断能力の程度により制度が異なる場合があるため要確認)。
Q. 遺言書があれば、認知症の相続人がいても手続きは進められますか?
A. 有効な遺言書があれば、原則として遺産分割協議が不要になるため、判断能力の問題に左右されにくくなります。老老相続への備えとして遺言書が有効とされる理由の一つです。
Q. 相続人本人が高齢で動けない場合、子や孫が代わりに手続きできますか?
A. 相続人本人に判断能力があれば、子や孫が委任を受けて書類収集などを代行することは可能です。ただし遺産分割協議自体は法定相続人本人の意思確認が必要なため、認知症等で判断能力がない場合は成年後見制度など正式な手続きが別途必要になります(要確認)。
Q. 家族信託と任意後見、どちらを選べばいいですか?
A. 財産の種類・ご家族の状況によって適した制度が異なります。当事務所では税務の観点からご相談を承り、必要に応じて司法書士など他の専門家と連携してご案内しています。
7. 判断能力があるうちにしか、選べない備えがあります
備えを決めてからご相談いただく必要はありません。まだ何も決まっていない段階でお越しいただくのが、いちばんお役に立てるタイミングです。当事務所は岐阜県瑞穂市を拠点に、「そろそろ親も高齢だから」という段階での生前のご相談も承っています。対応できる内容はサービス・料金のページでもご案内しています。