「税務署から相続税について何も言われていないから、申告は必要ないのでは?」
相続のご相談では、このような疑問をお聞きすることがあります。
しかし、相続税は税務署から案内が届いてから申告する税金ではありません。相続財産などを確認し、課税価格の合計額が基礎控除額を超える場合には、原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内に申告と納税を行う必要があります。
そして現在、税務署は相続税法58条に基づく行政機関同士の情報連携により、人が亡くなった事実や、その方が所有していた不動産に関する基礎情報を把握できる仕組みを持っています。
今回は、相続税法58条の現在の仕組みと、岐阜で不動産を相続した場合に注意したいポイントを解説します。
相続税法58条は行政機関同士の情報連携を定めた規定
相続税法58条は、相続人に何らかの書類を送るための規定ではありません。
法務省、市区町村、国税庁・税務署の間で、相続税の課税判断に必要となる基礎情報を共有するための規定です。
現在の情報連携は、大きく次の2つに分かれます。
1.死亡や相続人に関する情報
2024年4月以降、死亡や失踪に関する戸籍情報は、法務省から国税庁へ電子的に提供される運用となりました。
提供される情報には、亡くなった方の氏名、生年月日、死亡日、住所、本籍などのほか、亡くなった方と相続人を特定するために必要な戸籍情報が含まれます。
情報は常時リアルタイムに送られるのではなく、原則として月ごとに法務省から国税庁へ提供されます。国税庁の運用要領では、毎月の月初から原則5稼働日以内に提供するとされています。
つまり、死亡届を提出した事実が、相続人から税務署へ連絡しなければ分からないという仕組みではありません。
2.土地や建物に関する固定資産情報
亡くなった方が所有していた土地や建物については、市区町村から所轄税務署へ固定資産課税台帳の情報が提供されます。
死亡情報が法務省から国税庁へ一括して連携されるようになった後も、固定資産情報は市区町村から税務署へ提供される仕組みが続いています。国税庁は、この固定資産情報についても市区町村からオンラインで連携できる仕組みの整備を進めています。
そのため、亡くなった方名義の土地や家屋については、税務署側でもその存在を把握しやすいと考えておく必要があります。
58条の情報だけで相続税額が決まるわけではない
相続税法58条により税務署が相続の発生を把握しても、それだけで相続税の申告義務や税額が確定するわけではありません。
死亡情報や固定資産情報だけでは、次のような財産・債務の全体像までは分からないためです。
- 預貯金
- 株式、投資信託などの有価証券
- 生命保険金
- 貸付金
- 事業用財産
- 名義預金の可能性がある預金
- 生前贈与を受けた財産
- 借入金や未払金
- 葬式費用
相続税の申告が必要かどうかは、これらを含めた財産と債務を相続人側で整理して判断します。
相続税の基礎控除額は、次の算式で計算します。
3,000万円+600万円×法定相続人の数
財産の課税価格の合計額が基礎控除額を超える場合には、原則として相続税の申告が必要です。
岐阜の相続では不動産の確認が特に重要
岐阜で相続財産を調べる場合、自宅の土地・建物だけを確認すればよいとは限りません。
例えば、次のような不動産が含まれていることがあります。
- 現在は誰も住んでいない実家
- 親族に貸している土地
- 昔から所有している田や畑
- 利用していない山林
- 離れた場所にある資材置場
- 共有名義になっている土地
- 岐阜市、瑞穂市、本巣市など、複数の市町村にまたがる不動産
固定資産税の納税通知書が手元にあっても、それだけで亡くなった方の不動産をすべて確認できたとは限りません。
複数の市町村に不動産がある場合は、それぞれの市町村で名寄帳や固定資産評価証明書などを取得して確認する必要があります。
また、登記簿、固定資産税の課税資料、実際の利用状況が一致していないケースもあるため、書類だけでなく現地の状況も確認することが重要です。
固定資産税評価額と相続税評価額は同じではない
不動産の相続で特に多い誤解が、固定資産税の納税通知書に記載された評価額を、そのまま相続税の計算に使えると考えてしまうことです。
建物の評価
建物については、原則として固定資産税評価額を基礎として相続税評価額を計算します。
一般的な自宅で、第三者へ賃貸していない建物であれば、固定資産税評価額と同額になるケースが基本です。
ただし、アパートや貸家などの場合は、賃貸状況を考慮した評価が必要になることがあります。
土地の評価
土地は、固定資産税評価額をそのまま使用するとは限りません。
相続税における土地の評価方法には、主に次の2つがあります。
路線価方式
路線価が定められている道路に面した土地について、路線価、面積、土地の形状などを基に評価します。
倍率方式
路線価が定められていない地域について、固定資産税評価額に国税庁が定める倍率を乗じて評価します。
土地は宅地だけでなく、田、畑、山林などの地目ごとに評価し、所在地や利用状況に応じて路線価方式または倍率方式を適用します。
岐阜の相続では、同じご家族の財産の中に、路線価方式で評価する自宅敷地と、倍率方式で評価する農地・山林などが混在することもあります。
固定資産税評価額を単純に合計しただけでは、相続税の申告要否を正しく判断できない可能性があります。
土地は形状や使い方によって評価額が変わる
同じ面積、同じ路線価の土地であっても、相続税評価額が同じになるとは限りません。
例えば、次のような事情が評価に影響します。
- 土地の形が整っていない
- 間口が狭い
- 奥行きが長い
- 道路との高低差がある
- 他人に貸している
- アパートの敷地として利用している
- 複数の地番を一体で利用している
- 登記上の地目と現況が異なる
- 農地転用などに制限がある
路線価方式では、土地の奥行きや形状などに応じた補正を行って評価します。単に「路線価×登記面積」で終わらない土地もあります。
特に農地、山林、広い土地、旗竿地などが含まれる場合は、早い段階で評価方法を確認することが大切です。
税務署から「お知らせ」や「お尋ね」が届くこともある
相続税法58条に基づく情報連携そのものが、相続人へ通知されることはありません。
一方、税務署が把握した情報などを基に、相続人へ相続税に関する案内や「お尋ね」が届くことがあります。
お尋ねが届いたからといって、直ちに税務調査が始まるという意味ではありません。しかし、相続財産や申告の必要性について確認を求められているため、そのまま放置することは避けましょう。
国税庁の「相続税の申告要否判定コーナー」は、申告のおおよその要否を確認するほか、税務署から相続についてのお尋ねが届いた場合の回答作成にも利用できるとされています。
税務署から何も届かなくても確認は必要
税務署から案内やお尋ねが届いていないことは、相続税の申告が不要であることを意味しません。
相続税は、税務署からの連絡を待って手続きを始める制度ではなく、相続人が財産と債務を整理し、申告の必要性を判断する申告納税制度だからです。
また、税務署からの案内が届く時期によっては、すでに申告期限までの時間が少なくなっている可能性もあります。
相続が発生した場合は、税務署からの連絡の有無にかかわらず、早めに次の事項を確認しましょう。
- 法定相続人は誰か
- 遺言書があるか
- 預貯金や有価証券はいくらあるか
- 生命保険金があるか
- 土地や建物をどこに所有しているか
- 田畑や山林がないか
- 過去の贈与がないか
- 借入金や未払金がないか
- 相続税の基礎控除額はいくらか
- 申告期限はいつか
相続税の申告期限は、原則として被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。期限後の申告や過少申告となった場合には、本来の税額に加えて加算税や延滞税がかかることがあります。
まとめ
相続税法58条により、税務署は死亡の事実や、亡くなった方が所有していた土地・建物に関する基礎情報を把握できる仕組みになっています。
ただし、この制度だけで相続財産の全体や相続税額が自動的に確定するわけではありません。
相続税の申告が必要かどうかは、相続人が預貯金、不動産、生命保険、有価証券、生前贈与、債務などを整理し、正しい評価額に基づいて判断する必要があります。
特に岐阜の相続では、自宅以外の田畑、山林、空き家、共有地、別の市町村にある土地などが見落とされることがあります。また、土地は固定資産税評価額をそのまま相続税の計算に使用できるとは限りません。
「税務署から何も届いていないから大丈夫」と判断せず、相続が発生したら早めに財産の全体像を確認しましょう。
みずほ会計事務所では、岐阜市、瑞穂市、本巣市、北方町をはじめとする岐阜県内の相続について、相続税申告の必要性の確認、不動産評価、相続税の試算、申告手続きのご相談を承っています。
相続税がかかるか分からない段階でも、お気軽にご相談ください。
ご注意
本記事は、掲載日時点の法令・制度・公表資料等に基づき、一般的な情報提供を目的として作成したものです。その後の法改正や制度変更、行政機関の取扱いの変更等により、掲載内容と実際の取扱いが異なる場合があります。
また、個別の事情によって適用される取扱いは異なりますので、具体的な判断や手続きを行う際は、税理士その他の専門家または関係行政機関へご確認ください。本記事の情報を利用したことにより生じた損害等について、当事務所は責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。